四十肩、五十肩に対する徒手療法・運動療法

上肢について

最近、四十肩・五十肩でお悩みの方からのご相談が続いています。

こういうのって不思議なもので、一度相談が入ると、同じような症状の方が続くことがありますよね。まるで、そういう「流れ」が来ているかのように。

今回はその中でも、比較的よく見かけたケースについて、整理も兼ねてまとめてみました。

※あくまで「こういう傾向がある」という一例ですので、すべての方に当てはまるわけではありません。


主な訴えとその特徴

今回多く見られた主訴は次のようなものでした。

  • 肩関節屈曲が90〜120°程度で、肩峰下〜三角筋周囲にかけての不明瞭な痛み
  • 結帯動作での肩関節前面や三角筋前部繊維にかけての不快感・違和感

いずれも「痛みの場所がハッキリしない」「動きが制限される」といった、日常生活に支障をきたすケースが多い印象でした。


身体アライメントの特徴とその影響

上腕骨の前方変位

まず顕著だったのは、肩関節における上腕骨の前方変位です。

この状態では、三角筋前部繊維や二頭筋長頭腱など、肩関節前面の組織に過剰なストレスがかかりやすくなり、肩峰下でのインピンジメントも起きやすくなります。


胸郭のアライメント異常(円背)

さらに多くの方に共通していたのが、胸郭が屈曲位(円背)になっていることです。

この姿勢では、

  • 肩甲骨が外転・上方回旋
  • 上腕骨が内旋位

になりやすく、QLS(quadrilateral space)での腋窩神経絞扼や、肩甲上神経への負担が増加します。結果的に、肩前面や肩峰下の痛みにつながりやすくなります。


下位胸郭の後方変位とその連鎖

さらに観察を進めると、下位胸郭が後方に偏位し、上位胸郭との連動がうまくいっていない方が多い傾向にありました。

このアライメントでは、肩の屈曲運動を行おうとしても、

  • 上位胸椎が伸展できない
  • 肩甲骨がうまく下制できない
  • 肩関節にかかる負荷が増大する

といった問題が生じやすく、動作のたびにインピンジメントが起きるリスクが高まります。

また、

  • 横隔膜の過緊張
  • 胸郭の可動性の低下
  • 頸部・胸部の筋緊張(特に斜角筋)

などが連鎖し、胸郭出口症候群のような神経絞扼症状につながるケースも見られました。


治療のアプローチ:肩だけでは足りない

このような肩の痛みに対して、患部だけにアプローチするのでは不十分です。

特に今回のケースでは、

  • 上腕骨の前方変位の修正
  • 胸郭(特に下位胸郭)のアライメント改善

が不可欠でした。


胸郭アプローチから始める

まず行ったのは、胸郭、特に下位胸郭の可動性を取り戻すことです。

主なアプローチ:

  • 下位胸郭の内旋モビライゼーション
  • 下位胸郭の自動運動エクササイズ(詳細は割愛)

胸郭が動くようになることで、肩甲骨や胸椎、胸郭の動的なバランスが改善し、肩関節への過剰な負荷が減っていきます。


肩関節へのアプローチ:上腕骨の位置を整える

胸郭の動きが整ったところで、次に肩関節への介入に移行します。

主に修正すべきは、上腕骨の前方変位です。

原因として考えられる要素:

  • 棘下筋・小円筋の機能低下
  • 後部関節包の硬さ
  • 大胸筋・肩甲下筋・前鋸筋・三角筋前部・二頭筋短頭の過緊張

これらが組み合わさることで、上腕骨が前方へと偏位し、動作時に痛みを生じやすくします。

具体的な介入例:

  1. 筋・筋膜リリース
    特に大胸筋、肩甲下筋、広背筋、前鋸筋など、前方変位に関与する組織へアプローチ。
  2. 肩関節1stポジションでの外旋
    骨頭が前方へ移動しないようアシストしながら、外旋運動を行います。
  3. 肩関節水平屈曲ストレッチ
    後方の関節包や棘下筋のタイトネスをじっくりと緩め、可動域を拡大。
  4. 自動外旋エクササイズ
    棘下筋・小円筋の収縮を自覚してもらいながら、内旋→外旋を繰り返して機能を高めていきます。

これらを丁寧に進めることで、上腕骨の安定性が増し、痛みの軽減にもつながっていきます。


なぜ外旋が重要なのか?

肩関節屈曲時には、大結節が烏口肩峰アーチの下を通過します。このとき、上腕骨の外旋が確保されていないと通過できず、肩関節に負荷がかかります

外旋筋(棘下筋・小円筋)の機能が低下している状態では、上腕骨の位置が不安定となり、動作時の痛みや制限が強く出てしまいます。


まとめ:まず「胸郭」から整えることが鍵

四十肩・五十肩の患者さんでは、

  • 上腕骨の前方変位
  • 胸郭の屈曲(円背)

といったアライメント異常がよく見られます。

このようなケースでは、肩だけを治療しても効果が限定的です。
まずは胸郭(特に下位胸郭)の動きや位置を整えることが最優先となります。

そのうえで、上腕骨の位置を修正し、外旋筋の機能を回復させることで、
肩の動きが改善し、痛みも軽減されていきます。


少し長くなりましたが、この記事が現場で奮闘されている若手セラピストの皆さんの参考になれば嬉しいです。
今後も臨床での気づきや考察を発信していきますので、ぜひまたチェックしてみてくださいね。

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